会 長 談 話  
            
              
一般社団法人 中津市医師会 会長  末廣 朋耒
 

 猛暑の夏になってしまいました。市民の皆様におかれましては、特に熱中症にならぬよう
御自愛の上、お過ごしください。昨年十月、中津市民病院新病棟での診療が始まりました。
また本年四月には、脳神経外科が開設され、すでに最先端の治療が行われています。長年の
懸案に対する解決策が着々と具現化され、地域の医療体制の不足や不安が払拭されつつある
姿にひとまず安堵しています。中津市医師会では、この十五年、組織を挙げて地域の中核病
院を育てるために、行政とともに真剣に取り組んでまいりました。今、振り返ってみても、
基本的な理念やその時々の行動は正しく適切であったと確信しています。この間、我国の経
済は長く低迷し、新卒医師の臨床研修制度の変革に伴う深刻な医師不足、警察権力による医
療現場に対する不当過剰な介入、そのような風潮のなかでの外科系、産婦人科系医師の撤収
など克服困難な状況でありました。折しも、市町村合併の問題がありましたが、当市ではむ
しろ好機と捉え、新貝市長を始め多くの市職員の時機を得た、献身的な努力が結実しました。
全ての関係者に感謝と敬意を表します。個人的にも、大事業に関わり意見を開陳することが
できた日々を誇りに思っています。

 昨今、風疹の流行と風疹ワクチンの不足が問題になっています。本来、全ての国民が必要
なワクチンを適切な年齢、時期に接種しておれば問題はなかったのです。我国ではマスコミ
を中心に、医療行為の副作用や副反応を必要以上に吹聴し、攻撃材料にする傾向が強いよう
に感じます。副反応を恐れるあまり、あるいは面倒くさいという理由で接種の機会を逃して
しまい、予防可能な感染症に罹患したり、疾患の致死率や重篤な後遺症を心配したりする状
況は、先進国の社会には相応しくありません。感染症のために不運な目にあう確率の高さは、
ワクチンの副反応を勘案したとしても、なお余りあるものです。我国の現状は、少なくとも
疾病予防に関しては、文明開化の途上、まだまだ科学技術を消化しきれていませんね。

 風疹を予防するワクチンには、風疹単独ワクチンと麻疹(はしか)ワクチンとの混合ワク
チンがあり、後者はMRワクチンと呼ばれています。MRワクチンは本来、一歳児と六歳児
に基礎免疫をつけるために接種していますが、風疹単独ワクチンの流通がほぼ皆無となって
しまったために、成人の風疹予防にも流用しています。MRワクチンの需給も決して余裕が
あるわけではなく、子供たちの接種に支障が生じ、数年前のように麻疹が流行しますと国際
的にも厳しく非難される由々しき事態になります。残念ながら、我国のワクチンメーカーは
いずれも小規模企業で前年の実績に基づき生産しており、突然の増産要求に対応できません
し、増産分も国家検定を受け品質保証ができるまで市場には流通しません。そのような状況
下で、なんとか入手可能なMRワクチンを地域社会のなかで有効に接種しなければなりませ
ん。中津市からワクチン接種に関して補助金を支給する件について相談があり、前述の状況
を踏まえた上で、抗体検査とワクチン接種に分けて補助していただくことになりました。中
津市内では過去に何度か風疹の流行があり、ワクチン接種が必要な成人は案外少ないと予想
しています。いい機会ですから、該当の世代の人はまず抗体検査を受けてみませんか。つい
でに麻疹、水痘、ムンプス(おたふくかぜ)も調べてみてください。さらにA型肝炎、B型
肝炎もお勧めします。これらのウイルスには、全て実績のある予防接種があります。もし、
心配な方がおられたら、C型肝炎やHIV(エイズウイルス)についても同様に検査できま
す。この二つについて予防接種はまだ開発されていませんが、有効な治療法はすでに確立し
ています。C型肝炎はかなり治癒が期待できる時代になってきました。B型肝炎とHIVに
ついては、おそらく、生涯にわたる治療が必要な時代が続きそうです。いつの日か、はるか
先の子孫たちはこれらのウイルスの脅威から自由になっていることでしょう。今はまず、感
染の輪を断ち切る努力が必要と考えています。

                                                         2013.8.